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札幌地方裁判所 平成9年(ワ)1918号 判決

原告

株式会社龍方

右代表者代表取締役

龍方あい子

右訴訟代理人弁護士

廣岡得一郎

被告

A

外五名

右被告六名訴訟代理人弁護士

野並正彦

被告

G

外二名

主文

一1  原告が、本判決確定後六か月以内に、被告Aに対し三一七万三四一四円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員、被告B及び被告Cに対し各自一五八万六七〇七円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員、被告D、被告E、被告F、被告G、被告H及び被告Iに対し各自六三四万六八二八円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払ったときは、別紙物件目録(一)記載の各土地を原告の単独所有とする。

2  原告が本判決確定後六か月以内に、被告らに対し、右1の金員を支払わないときは、別紙物件目録(一)記載の各土地を競売に付し、その売得金を原告が一〇分の三、被告Aが四〇分の二、被告B及び被告Cがそれぞれ四〇分の一ずつ、被告D、被告E、被告F、被告G、被告H及び被告Iがそれぞれ一〇分の一ずつの割合により分割する。

二1  被告Aは、一項1により原告が別紙物件目録(一)記載の各土地の単独所有権を取得したときは、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の各土地における同被告の共有持分四〇分の二について、共有物分割を原因とする持分全部の移転登記手続をせよ。

2  被告B及び被告Cは、一項1により原告が別紙物件目録(一)記載の各土地の単独所有権を取得したときは、原告に対し、各自、別紙物件目録(一)記載の各土地における同被告らの各共有持分四〇分の一について、共有物分割を原因とする持分全部の移転登記手続をせよ。

3  被告D、被告E、被告F、被告G、被告H及び被告Iは、一項1により原告が別紙物件目録(一)記載の各土地の単独所有権を取得したときは、原告に対し、各自、別紙物件目録(一)記載の各土地における同被告らの各共有持分一〇分の一について、共有物分割を原因とする持分全部の移転登記手続をせよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一  請求

1  別紙物件目録(一)記載の各土地は、原告の単独所有とする。

2(一)  被告Aは、原告に対し、原告から二五七万三二八一円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を受けるのと引き換えに別紙物件目録(一)記載の各土地における同被告の共有持分四〇分の二の持分全部の移転登記手続をせよ。

(二)  被告B及び被告Cは、原告からそれぞれ一二八万六六四二円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を受けるのと引き換えに、別紙物件目録(一)記載の各土地における同被告らの共有持分各四〇分の一の持分全部の移転登記手続をせよ。

(三)  被告D、被告F、被告E、被告G、被告H及び被告Iは、原告からそれぞれ五一四万六五六八円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を受けるのと引き換えに、別紙物件目録(一)記載の各土地における同被告らの共有持分各一〇分の一の持分全部の移転登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

第二  事案の概要

本件は、原告と被告らの共有とされ、その旨の登記がされている別紙物件目録(一)記載の各土地(以下「本件土地」という。)につき、原告が被告らに対し、全面的価格賠償の方法による共有物分割と被告らの共有持分全部の移転登記手続をなすべきことを求めている事案である。

一  争いのない事実等(末尾に証拠等を掲げた事実以外の事実は争いがない。)

1  本件土地の現況

本件土地は、もと、別紙物件目録(二)記載の土地であったが、札幌圏都市計画道路3・4・8北八条通(以下「北八条通り」ということがある。)拡幅事業により、平成一一年四月一四日、同目録記載二の土地のうちの北側15.98平方メートルの部分(別紙図面(一)記載の赤斜線部分)が札幌北区北七条西〈番地略〉の土地(以下「乙土地」という。)に分筆された上、札幌市土地開発公社(以下「開発公社」という。)に対し、同年三月三〇日売買を原因とする所有権移転登記手続がなされた。その際、原告及び被告らは、開発公社から別表記載のとおり、乙土地の持分割合に応じて合計一六六一万九二〇〇円の代金の支払を受けた(調査嘱託の結果、弁論の全趣旨)。

2  本件土地の共有関係

(一) 本件土地は、もとJが所有していたが、Jは、昭和五五年六月一日に死亡し、その相続人は、K(長女)、L(二女)、M(長男)、被告D(二男)、被告E(三女)、被告F(三男)、N(四女)、O(四男)、被告H(養子)及び被告I(養子)の一〇名であり、同人らは、相続によって本件土地の共有持分を各一〇分の一ずつの割合で取得した。

(二)(1) Mは、平成七年二月二四日死亡した。

(2) Mの相続人は、被告A(妻)、被告B(長男)、被告C(養女)の三名であり、同人らは、相続によって本件土地のMの共有持分を、被告Aについては、四〇分の二の持分割合で、被告B及び被告Cについては、四〇分の一ずつの持分割合で取得した(甲三四〜三七)。

(三) Nは、昭和五九年一月一一日に死亡し、その長女である被告GがNの共有持分全部(持分割合一〇分の一)を相続によって取得した。

(四) 原告らは、平成五年一二月二八日、Oから、本件土地の同人の共有持分全部(持分割合一〇分の一)を買い受けた(甲二の二、甲五の二、甲二九)。

(五) Lは、昭和六三年八月二三日に死亡し、その相続人は、別紙相続人目録記載の七名であり、同人らは、相続によって本件土地のLの共有持分を、それぞれ持分七〇分の一ずつの持分割合で取得した上で、平成九年二月二六日、高橋恒(以下「高橋」という。)に対し、同相続人の持分全部(各持分割合七〇分の一、合計で持分割合一〇分の一)を代金五一七万六〇〇〇円で売り渡した。そして、高橋は、同年四月二五日、原告に対し、同人の本件土地の右共有持分全部を代金五四七万円で売り渡した(甲二の二、甲五の二、甲三〇及び三一)。

(六) Kは、平成九年三月四日、高橋に対し、同人の本件土地の共有持分全部(持分割合一〇分の一)を代金五一二万円で売り渡した。そして、高橋は、同年四月二五日、原告に対し、同人の本件土地の右共有持分全部を代金五四二万六〇〇〇円で売り渡した(甲二の二、甲五の二、甲三二及び三三)。

(七) このように、原告と被告らは、本件土地を、原告が一〇分の三、被告D、被告E、被告F、被告G、被告H及び被告Iが、それぞれ一〇分の一ずつ、被告Aが四〇分の二、被告B及び被告Cがそれぞれ四〇分の一ずつの持分割合により共有している。

3  本件土地及びその隣接地の所有、利用関係

(一) 本件土地の東側の隣接地である札幌市北区北七条西〈番地略〉の土地(以下「甲土地」という。)は、株式会社丸五トーア(以下「トーア)」という。)が所有している。

(二) 本件土地と甲土地の上には、原告所有の別紙建物目録記載一の建物(以下「甲建物」という。)が存在し、本件土地上には、トーア所有の別紙建物目録記載二の建物(以下「乙建物」という。)と原告所有の別紙建物目録記載三の建物(以下「丙建物」という。)が存在している(甲三の一ないし四、甲七の二、乙八、鑑定の結果)。

(三) 被告G、被告I及び被告H(以下「被告Gら」という。)は、本件土地の南西部分に所在する札幌市北区北七条西〈番地略〉の土地とこれに隣接している〈番地略〉の土地(以下「丙土地」という。)を共有している(甲一三の一、二、甲一五、乙八、鑑定の結果)。

(四) なお、本件土地及び隣接地の位置関係並びに甲、乙及び丙建物の位置関係は、別紙図面(一)のとおりであり、甲、乙及び丙建物の配置は、別紙土地・建物配置図のとおりである。

二  争点

1  本件土地につき、現物分割が可能か、可能であるとしても、分割により著しく価格を損なうおそれがあるか。

2  現物分割を行うことができないとした場合、原告に対する全面的価格賠償の方法により本件土地を分割することが許されるか。許されるとした場合の本件土地の適正な評価及び原告の価格賠償金を負担する能力の有無。

三  争点に関する当事者の主張

1  現物分割の可否について

(一) 原告の主張

本件土地は、面積が254.28平方メートルであり、その地形は別紙図面(一)及び別紙土地・建物配置図記載のとおりであって、原告を含め一〇名の共有者が現物分割することは物理的には不可能ではないが、本件土地を公道に接するように分割するとすれば、使用価値も流通価値もない土地に区画されることになり、著しくその価格を損する虞れがある。

(二) 被告A、被告B、被告C、被告D、被告E及び被告F(以下「被告Aら」という。)の主張

本件土地の面積及び地形が原告主張のとおりであるとしても、現物分割は不可能ではないし、現物分割したとしても、収益物件としての独自の価格及び適格性は十分に認められる。

(三) 被告Gらの主張

被告Gらは、本件土地に隣接している丙土地を共有しており、被告Gらは、この隣接地である丙土地を四〇年近くの長きにわったって運用し、活用している。したがって、丙土地に隣接する本件土地についての被告Gらの共有持分の合計一〇分の三に相当する現物分割をすることによって、被告Gら共有地の利用度、活用度を高度化することができる。

(四) 被告Hの主張

(1) 本件土地を被告Gらの持分割合の合計一〇分の三の面積を持つ部分と、それ以外の部分に分割し、一〇分の三の面積を持つ部分(以下「被告Gら現物分割希望部分」という。)を被告Gらの共有とする方法による現物分割は可能である。そして、右現物分割により被告Gらに分割すべき部分は、別紙分割案一又は別紙分割案二のとおり、丙土地と隣接し、かつ本件土地が接する公道である北八条通りの拡幅作業後の公道に面するようにすべきである。

(2) 丙土地は、現在月極駐車場契約に基づき八台が駐車利用しているが、被告Gら現物分割希望部分が被告Gらに現物分割されれば、この部分を丙土地上の駐車場の出入口として利用することができ、この場合、現在では一基しか建設利用することができない約三五台を収容することが可能なリフト式立体駐車場が丙土地に二基設置することができることになり、土地を効率的に利用することが可能になる。

(五) 被告Gら及び被告Hの主張に対する原告の反論

被告Gらの主張によれば、本件土地の公道に面する部分(6.39メートル)は、乗用車一台が一方向にようやく通過できる程度の幅員の二つの細長い土地に分割されることになり、この場合本件土地の経済的価値は著しく減少し、かつ、分割後の本件土地の利用上の不便さを増大させることになる。

2  全面的価格賠償の方法による分割の許否及び本件土地の価格について

(一) 原告の主張

(1)① O(以下「O」という。)は、昭和四四年七月二一日にJから本件土地を賃借し、株式会社甲野(以下「甲野」という。)は、本件土地とOが所有していた甲土地の上にまたがって甲建物を建築し、これを所有していた。

② トーア(旧商号株式会社トーア)が、甲野から甲土地を買い受け、原告も、Oから、甲建物を買い受け、それぞれ昭和六二年一月一六日所有権移転登記を経由した。以後、原告は、本件土地を事実上占有している。

③ 原告は、Oとの間で、昭和六一年九月一日付けで、原告が本件土地を使用すること、原告が本件土地の固定資産税見合額として毎月三万六〇〇〇円をOに支払うことを内容とする契約を締結し、現在に至るまで、原告はOに対し、右金員を支払い、Oは、本件土地の固定資産税を支払っている。

④ 被告らは、相続によって取得した本件土地周辺の他の土地を売り渡しているほか、被告らは、他にも土地を所有しており、本件土地を取得してこれを利用する必要性は高くない。

したがって、本件土地は、共有者のうち、原告に取得させるのが相当であり、かつ、他の土有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しない特段の事情がある。

(2) 原告は、昭和三一年一二月に設立されて以来順調に営業を継続して現在に至っており、多額の金員を投じて甲建物を取得した実績があることに照らし、本件土地の適正な評価額に基づき、価格賠償金を負担する能力は十分にある。

(二) 被告Aらの主張

被告Aらは、本件土地共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情の要件を満たす限りでは、全面的価格賠償の方法によることは、争わない。そして、本件土地の適正な評価は、全面的価格賠償の方法によって他の共有持分すべての取得を希望する原告という特定購買者というべき者を想定した土地共有者間の公平を確保する適正な限定価格によるべきであり、その評価は、次に述べるような方法により行うべきである。

(1) 本件土地周辺地区は、昭和五八年一月二七日(地区範囲につき平成四年一〇月一六日変更告示)、都市計画法八条一項三号の「高度利用地区」として「札幌駅北口地区第一地区」に指定され建築基準法五九条一項本文による建築制限を受けている。そして、本件土地が存在する札幌駅北口地区第一地区に関する具体的な制限内容によれば、建築面積の最低限度は三〇〇平方メートルとされており、本件土地の合計面積は254.28平方メートルであるから、本件土地には建築基準法五九条一項ただし書の制限建物しか建築できない。

しかし、原告と、隣接地である甲土地を所有しているトーアとは、別紙役員一覧表記載のとおり、代表者が夫婦関係にあり、役員もほとんど共通している実態が同一の同族会社であるから、本件土地とトーアの所有する甲土地の地積182.18平方メートルを加えると右建築制限を受けないこととなる。したがって、全面的価格賠償の方法により原告が本件土地の単独所有権を取得するに当たっては、右公的規制による減価要因は考慮されるべきではない。

(2) 本件土地は、不整形地であるが、本件土地と隣接地である甲土地を一体の土地として、その形状をみれば、利用効率が劣る「土地の不整形」の状態は生じない。したがって、全面的価格賠償の方法により原告が本件土地の単独所有権を取得するに当たっては、本件土地が不整形であることによる減価要因は考慮されるべきではない。

(3) 本件土地には、原告所有の甲建物の地下埋設物及び丙建物並びにトーア所有の乙建物が存在しているが、全面的価格賠償の方法により原告が本件土地の単独所有権を取得するに当たっては、これらの建物等の存在による減価要因は考慮されるべきではない。

(三) 被告Hの主張

原告とトーアは、役員構成をほぼ同じくする同族会社であり、仮に原告が全面的価格賠償の方法により本件土地の単独所有権を取得した場合には、本件土地をトーア所有の甲土地と一体の土地として利用することになり、原告は、公的規制を受けず、かつ、不整形地ではない甲土地と一体となった本件土地の評価額相当の利益を受けることになるから、全面的価格賠償の方法により本件土地を原告に取得させることは、共有者間の公平を害する。

第三  争点に対する判断

一  争点1 (現物分割の可能性)に対する判断

1  証拠(甲一の一ないし三、甲二の二、甲五の二、乙八、鑑定の結果、調査嘱託の結果)によれば、本件土地は、北側が幅員二〇メートルの両側歩道付舗装市道北八条線(北八条通り)に接し、かつ右道路の格幅予定地として別紙物件目録(二)記載二の土地から分筆された乙土地に接する間口6.39メートル、奥行約27.5メートル、地積254.28平方メートルの鍵型状不整形地で、本件土地のうち全体の約四三パーセントが幅6.39メートル、延長約17.5メートルの通路状の部分で、全体の約五七パーセントを占める東西約15.5メートル、南北約一〇メートルの背後の部分が有効宅地部分となっている不整形地であると認められる。

このように、本件土地のうち、公道拡幅予定地たる乙土地(以下単に「公道」ということがある。)に接している部分の幅が6.39メートルであることからすれば、本件土地を公道に接するように原告と被告らの間で現物分割することは物理的に不可能ではないが、仮に間口部分を持分比率に従い現物分割した場合には、最も持分割合の高い原告に分割された土地の部分ですら、建築基準法上の接道義務を満たさない1.917メートルの幅でしか公道に接しないことになり、いわんや被告A、被告B、被告Cを除く被告らにおいては、わずか0.639メートルの幅で、被告A、被告B、被告Cに至っては、他の被告の半分又は四分の一の幅でしか分割後の土地が公道に接しないことになり、分割後の各土地は、ほぼ利用価値のない土地になることは明らかである。また、本件土地を原告と被告らとの間で、その持分割合に応じて、公道に接する部分とそうでない部分とに現物分割する方法も不可能ではないが、このような方法により現物分割した場合には、袋地となった公道に面しない土地の利用価値がほとんどなくなることになる。そうすると、本件土地を現物分割することは、土地の有効利用可能性の観点から、全体としての使用価値、交換価値を著しく減少せしめることになる。

したがって、本件土地を現物分割することは、本件土地の全体としての価格を著しく損なうことになるというべきである。

2  ところで、被告Gら又は被告H(以下「被告Gら」ということがある。)は、本件土地を、被告Gらの持分割合の合計一〇分の三の面積を持つ部分と、それ以外の部分に分割し、一〇分の三の面積を持つ部分(被告Gら現物分割希望部分)を被告Gらの共有とする方法による現物分割は可能であると主張する。

確かに、被告Gら現物分割希望部分を被告Gらの共有とし、それ以外の部分を原告と被告Aらとの間で現物分割するとの分割方法が許されないわけではない。しかし、被告Gらの主張によれば、被告Gら現物分割希望部分は、別紙分割案一又は別紙分割案二記載のとおり、3.05メートル又は2.87メートルの幅で北八条通りの拡幅作業後の公道に接することになるというのであるから、本件土地の被告Gら現物分割希望部分以外の部分が公道に面する幅は3.34メートル又は3.52メートルとなり、右分割案に従って本件土地の残地部分を原告と他の被告との間で現物分割することになれば、本件土地の残地は、右1に述べた以上に利用価値のない土地に細分化されることになる。したがって、本件土地を被告Gら主張のように現物分割することも、本件土地の全体としての価格を著しく損なうことになるというべきである。

もっとも、本件土地を被告Gらの現物分割希望部分とそれ以外の部分(以下「残地部分」という。)に現物分割した上で、残地部分を原告が被告Aらに価格賠償をすることによって原告の単独所有とする方法も考えられないわけではない。しかし、証拠(鑑定の結果)によれば、右のように分割すれば、分割前は、本件土地の間口部分を駐車場等に利用することが可能であったのに比較し、分割後の残地部分は、間口が著しく狭くなり、通路としての利用しかできないことになる。しかも、背後の有効宅地の規模も小さくなることから、その分割後の不整形地であることによる減価率は、二五パーセントとなり、分割前の一五パーセントに比較すると、残地部分の経済的価値を著しく減少させることになる。

そうすると、右のような方法で、本件土地を現物分割することは、本件土地の全体としての価格を著しく損なうことになるばかりか、残地部分を価格賠償の方法によって分割することも、被告Aらが受ける賠償金が極めて低額になって、共有者間の実質的公平を著しく害することになるというべきである。

したがって、被告Gらの主張は、採用することができない。

二  争点2(全面的価格賠償の可否、本件土地の評価及び原告の価格賠償金支払能力の有無)に対する判断

1  全面的価格賠償の可否について

(一) 前記争いのない事実に加え証拠(甲三の一ないし四、甲四の一ないし三、甲七の一、二、甲五七、乙一ないし三及び八、鑑定の結果、調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件土地の隣接地である甲土地はトーアが所有しており、本件土地と甲土地の上には、原告所有の甲建物が存在し、本件土地上には、トーア所有の乙建物と原告所有の丙建物が存在している。また、本件土地には、原告所有の甲建物のための地下埋設物が存在しており、本件土地に占める甲建物とその地下埋設物、乙建物及び丙建物の占有面積割合は約六六パーセントであり、その敷地占有部分は、別紙土地・建物配置図記載のとおりである。

(2) 本件土地周辺地区は、昭和五八年一月二七日(地区範囲につき平成四年一〇月一六日変更告示)、都市計画法八条一項三号の「高度利用地区」として「札幌駅北口地区第一地区」に指定され建物基準法五九条一項本文による建築制限(以下「本件建築制限」という。)を受けている。そして、本件土地が存在する札幌駅北口地区第一区に関する具体的な制限内容によれば、建築面積の最低限度は三〇〇平方メートルとされており、本件土地の合計面積は、254.28平方メートルであるから、本件土地には建築基準法五九条一項ただし書の制限建物しか建築できない。

しかし、原告と、隣接地である甲土地を所有しているトーアとは、別紙役員一覧表記載のとおり取締役等の役員がほとんど共通しており、しかも、原告所有の甲建物について、トーアのために債権額一億円の抵当権設定登記と極度額二億五〇〇〇万円の根底当権設定登記がなされていることからすれば、原告とトーアは、その実態が同一の同族会社であると認められる。したがって、原告が本件土地の単独所有権を取得した場合、本件土地と甲土地を原告が一体の土地として利用することができることになり、本件土地にトーアの所有する甲土地の地積182.18平方メートルを加えると、原告は、本件土地を本件建築制限を受けない土地として利用することができることとなる。

(3) 本件土地は、不整形地であるが、本件土地と甲土地を一体の土地としてみた場合、その形状には利用効率が劣る「土地の不整形」の状態は生じない。

(4) 被告Gらは、本件土地の南西部分に丙土地を共有しており、これと本件土地とを一体として利用することによって、本件土地と丙土地との利用効率を高めることができるが、本件土地と丙土地とを一体の土地とみた場合には極めて複雑な不整形地となり、その利用は著しく限られたものとなるから、土地の有効利用という観点からすれば、本件土地と甲土地とを一体として利用する場合に比べ、利用効率が劣る。しかも、被告Gらは、本件土地の全体につき、単独の所有権の取得を希望していない。また、被告Aらの中には、本件土地の単独所有権を取得することによって、格別利益を受けると認められる者は存在しない。

(二) 右認定のとおり、本件土地は不整形地であるが、トーア所有の隣接地である甲土地と一体として利用することによって不整形地ではなくなり、本件建築制限を受けない利用効率が極めて高い土地として利用することが可能になること、本件土地には、原告所有の甲建物とその地下埋設物、丙建物及びトーア所有の乙建物が存在しており、本件土地を原告に単独で取得させることによって、これらの建物の取壊し等による経済的損失を防ぐことができること、他の共有者については、本件土地の全体について単独の所有権を取得することについて格別の利益がある者が存在しないこと、が認められ、これらの事実によれば、原告に本件土地の単独の所有権を取得させることが相当であり、他の共有者には、その持分の価格を取得させることとしても、共有者間の実質的公平を害しない特段の事情があると認められる。

2  本件土地の評価について

(一) 証拠(乙四、五、八、鑑定の結果、調査嘱託の結果)によれば、本件土地の近隣地域としての要因を備え、幅員約一八メートルの舗装道路沿いで一画地の規模が一〇〇〇平方メートル程度の高層事務所地の標準価格(以下「標準価格」という。)は一平方メートル当たり一〇四万円と認めるのが相当である。

(二) ところで、被告Aら及び被告Hは、本件土地は単独では本件建築制限を受ける不整形地であるが、原告と同族会社であるトーア所有の甲土地と一体の土地としてみた場合には、本件建築制限を受けることもなく、また不整形地でもないから、本件土地の評価に当たっては、甲土地と一体の土地とみた場合の評価をすべきである旨主張する。

確かに、右被告らの主張とおり、本件土地と甲土地とを一体の土地として利用することになれば、本件建築制限を受けることもなく、また、不整形地でもなくなるから、原告は、本件土地を取得することによって、本件土地を甲土地と一体として利用することによることの利益を得ることができる。しかし、この利益は、たまたま原告の同族会社であるトーアが隣接地である甲土地を所有していることによって得られる反射的な利益にすぎない。そうすると、この反射的利益をも本件土地を全面的価格賠償によって原告が取得するに際して考慮すべきであるとすることは、本件土地を競売に付した場合に比して他の共有者である被告らに予期せぬ利益を与えることになり、かえって共有者間の公平を害する結果になるというべきである。

したがって、被告Aら及び被告Hの右主張は採用できない。

しかし、原告が競売において本件土地の被告らの共有持分を買い受けたとすれば、原告が本件土地を利用する必要性から、最低売却価額を相当程度超える価格で本件土地を買い受けるであろうから、原告が本件土地を全面的価格賠償の方法によって取得する場合にも、本件土地の評価額を基準としつつも、このような、原告の本件土地取得における個別的な要因を考慮して本件土地の評価を行うことは共有者間の公平という観点に合致する。

そして、原告の本件土地取得における個別的な要因については、本件土地の評価額の二〇パーセントを加えた額を持って相当と認める。

そうすると、前記認定事実によれば、本件土地の一平方メートル当たりの更地価格は、標準価格である一〇四万円と認めるのが相当であり、これを基準として、まず、本件建築制限を受ける不整形地として価格修正をすべきである。そして、証拠(鑑定の結果)によれば、格差修正率は二〇パーセントとして計算すべきであるから、その結果、本件土地の更地価格は、一平方メートル当たり二〇万八〇〇〇円であると認められる。次に、原告が本件土地を全面的価格賠償の方法によって取得する場合の適正な評価を行なうためには、この金額に二〇パーセントに相当する金額を加えるべきであるから、これによって算定される本件土地の一平方メートル当たりの価格は二四万九六〇〇円と認められる。

(三) また、被告Aらは、本件土地に甲建物とその地下埋設物、乙建物及び丙建物が存在しているが、全面的価格賠償の方法により原告が本件土地の単独所有権を取得するに当たっては、これらの建物等の存在による減価要因は考慮されるべきではないと主張するので、この主張につき判断する。

証拠(甲二五及び二八)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和六一年九月一日、Oとの間で、Oが原告に対し、隣接土地と本件土地上にまたがって存在する本件建物の付帯設備であるオイルタンク等のため、本件土地を使用させる旨の契約を締結した。

(2) その後、原告がOほかJの相続人一〇名を被告として札幌地方裁判所に本件土地の使用権確認請求事件の訴えを提起したが、原告は、同訴えを平成二年九月六日に取り下げ、これに伴い、原告及びトーアは、Oとの間で、本件土地がJの遺産分割協議の対象となっていること、原告は、Oとの間の権利義務関係に関する主張を遺産分割協議により本件土地の権利の帰属が明らかになるまで留保すること等を内容とする協定書を作成した。

(3) 原告も、本件訴訟において、本件建物が本件土地にまたがって存在することから、本件土地を事実上占有する旨の主張をするが、本件土地につき、賃借権、使用借権等の占有権原を有している旨の主張をしているものではない。

右認定事実によれば、本件土地については、原告の占有権原がないものとして、評価を行うのが相当である。そして、証拠(鑑定の結果)によれば、不動産鑑定士濵野勝作成に係る不動産鑑定評価書では、占有権原なく工作物の設置されている土地は原則として減価しないで評価を行うが、買受人が土地の占有を取得すると見込まれる時間的、経済的負担等諸般の事情を考慮し、更地価格又は建付地価格から一〇パーセントの範囲で減価して評価を行うことができるとの理由に基づき、占有減価をして本件土地の評価をしているが、前記認定のとおり、原告は、本件土地上に甲建物とその地下埋設物及び丙建物を所有し、原告と同族会社であるトーアは、本件土地上に乙建物を所有しているのであるから、原告は、既に本件土地を占有していると認められ、原告が本件土地の単独所有権を取得することになれば、原告は、直ちに本件土地を右建物等の所有目的のために利用することができることになる。そうすると、原告が本件土地の占有を取得すると見込まれる時間的、経済的負担等諸般の事情を考慮して本件土地を減価して評価を行うことは相当ではない。

したがって、被告Aらの右主張には理由がある。

(四) 以上によれば、本件土地の一平方メートル当たりの評価額は二四万九六〇〇円と認めるのが相当であり、これに本件土地の面積の合計254.28平方メートルを乗じた六三四六万八二八八円が本件土地の適正な評価額であると認めることができる。

3  原告の価格賠償金支払能力の有無

(一) 前記のとおり、本件土地の適正な評価額は六三四六万八二八八円であるから、原告が全面的価格賠償の方法によって本件土地の単独の所有権を取得する場合には、被告らの持分割合に応じた価格賠償を行うことが必要であり、その総額は、本件土地の評価額から原告の持分割合一〇分の三を控除した残額である四四四二万七八〇一円(一円未満は切捨)である。

(二) そして、証拠(甲五〇ないし五七)によれば、平成七年一月から平成九年一二月までの三年間の原告の決算報告書では、未処分利益が八〇〇〇万円前後で推移していること、平成一〇年一一月二日現在の原告名義の札幌中央信用組合の普通預金口座には、四七六九万五七四二円の普通預金残高があること、が認められ、これらの事実によれば、原告には、右価格賠償金を支払う能力があるものと認められる。

三 「以上によれば、本件土地については、全面的価格賠償の方法によって原告に被告らの本件土地の持分全部を取得させることが相当であるが、他方、原告が被告らの持分割合に応じた価格賠償金の支払をしない場合には、被告らの利益が著しく害されることになることを考慮し、原告が本判決確定の日から六か月以内に被告らの本件土地の持分に相当する価格賠償金を各被告らに支払うことを条件として本件土地を原告の単独所有とすることとし、かつ、被告らに対し、原告が本件土地の単独所有権を取得したことを条件として持分移転登記手続を命じることが相当であり、かつ、原告が六か月以内に価格賠償金を支払わない場合には、本件土地を競売に付し、その売得金を原告及び被告らに対し、各持分の割合に応じて分割するのが相当である」。

そして、被告らが原告から受ける価格賠償金額は、被告Aについては本件土地の持分四〇分の二に相当する三一七万三四一四円(一円未満切捨、以下同じ)、被告B及び被告Cについては持分四〇分の一に相当する一五八万六七〇七円ずつ、他の被告らについては、持分一〇分の一に相当する六三四万六八二八円ずつであるから、被告らは、原告に対し、本判決確定の日から六か月以内に原告から右価格賠償金の支払を受けることによって原告が本件土地の単独所有権を取得したときは、本件土地についての被告らの持分全部の移転登記手続をすべき義務があるものというべきである。

四  よって、原告の共有物分割を求める請求は、主文一項の限度で理由があり、被告らに対し本件土地の共有持分移転登記手続を求める請求は主文二項の限度で理由がある。

(裁判官小濱浩庸)

別紙〈省略〉

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